BOOK LOG
本を読むなら、自分勝手に。
読書は「自分で選ぶ」ところから始まっていると思っています。
読書録など、次なる読者の楽しみの半分を奪っているんじゃないか
と不安になりますが、それでも話したくてたまらなくなる、
これぞ本屋のさが。
2019.2.19 今村夏子「ある夜の思い出」
神保町ブックセンターの入り口扉を開けて、平台に乗った文芸雑誌に今村夏子さんの名前を見つけ、反射的に手に取った。
数行読んで、これは今村さんご本人の話なのではないかと思った。
「学校を卒業してからの15年間無職で、一日中、畳の上に寝そべってテレビを観たりお菓子を食べたりしていた」
そうだこんな15年間を過ごしたからこそ、「こちらあみ子」(ちくま文庫)のあみ子ちゃんが生まれたんだ!
そうかもそうかも、なかなかできないよ。あとはちびまる子ちゃんくらいだよ、と読み進めていくうちに、
いつのまにか、頭頂部をがしっと捕まれ、ジェットコースターの勢いで、
なんだなんだ、えっ、あれ、あわわわわ、ぷしゅ〜、がごんっ。到着。おつかれさまでした〜!
というように、物語は終わってしまった。放心して、しばし立ち上がれない。
現実に戻り、「うん、フィクションだよね」と納得しようとするも、「もしかして、、、」がぬぐいきれない。
なんだこのリアリティ。
道に落ちてるポップコーンの味、捨てられたコロッケの油の味、アーケード商店街に腹這うときのアスファルトの冷たさ、お母さんのカップケーキの味、ゴミ収集車の前照灯の眩しさ。わたしの脳みそはその感覚を再現できてしまう。今村文章の魔法にかかっている。
文芸ムック「たべるのがおそい」vol.5に掲載 書肆侃侃房発行 ISBN:9784863853072